22 May 2015

愛しいズレ。



まただ。。もう!

寝違えた首の痛みだけでその日一日のパフォーマンスが何かと悪くなる。
つまずいたり、忘れ物をしたり、
美味しいはずの朝食のパン・オ・ショコラさえ味気なくさせる。

イライラ、イライラ。

天気はこんなにもいいのに本当にもったいない!
どこにいたってつきまとってくるから逃げ場もない。

骨と筋がちょっと喧嘩して、お互いがご機嫌斜め。
そんな喧嘩に頭から巻き込まれているわけだから、、無理もない。

何かがズレている感覚。
こんなことってよくある。

朝の天気予報に踊らされて傘を持っていったら日が射し始めたり、
ウール100%のセーターをうっかり洗濯機で洗ってしまったり、
ほつれたコートのボタンをつけた後に数センチ場所が違っていたり、
必要な時に肝心な赤色の色鉛筆が見当たらなかったり、、


ただまっすぐ立ちたいのに、
あっちからこっちから引っ張られて上手くバランスがとれない。
「もう放っておいてよっ!」って言いたいくらい。
集中しようとも意地悪に、
小さなちょっかいを次から次へと出してくる。
何かと面倒くさいズレとの付き合い方。

心と身体は一つだって言うから、

「あなたの首は至って正常。何の支障もございません!」

って、繰り返し自己暗示を試みるけれど、
身体の不快感はなかなか手強い相手。
ビクともしない。

そんな中、心の中に住んでいた小さな不安たちが、
「今がチャンスだ!」と言わんばかりに、
一瞬を狙って外に出ようとする。
封印されていた扉が開く。
そのうち、大きなコブの固まりみたいになって両方の肩に乗っかってくる。

首のズレから引き起こされる心のズレ。
ネガティブ思考への急降下。

ダメ、ダメ!

涼しい顔の下になんとかバランスを保とうと必死な自分。
深呼吸でさえ、頑張ってする。
バランスこそがこの平均台の上では一番重要だと言い聞かせて、
その技も自分なりに習得してきたつもりでいたのに・・

「そろそろいい加減にしてよ!!!」

あんまりしつこいと最後は逆切れしてしまって、努力も全て水の泡。

自分を支えていたはずの命綱がそのテンションに耐えきれなくなると、
怒りと共に音もなくプツンと切れてしまう。
無理して留めていたとれかけのボタン、
ついに本日をもちまして終了。。みたいな。


さあ、どうしよう?!

そのまま真っ逆さまに下に落ちるか、
それとも、
新しい技かなんかを思いついて助かるか?

こんな修羅場では、バランスも何もあったものじゃない!
羽が生えていれば別だろうけれど、
そうだとしてもこんな緊急事態にはそそのことをきっと忘れている。

思考の柔軟性。
それに賭けるしかないみたい。
残りの冷静さを出来る限り寄せ集めて、
少々、無理矢理なくらいに頭を使ってみる。

「さぁ、頭を使ってこの状況自体を3Dにイメージしてみましょう!」

自分に言い聞かせてその通りやってみる。

「次にその面を全てスケルトンにしてください。さぁ、何が見えますか?」

おぉ!
これはすばらしい!
新しい答え、
難題はすべて解けた!

・・・なんてすぐに上手くいくはずなくて。
頭脳系の作業に不慣れな人間にとっては特別な訓練がいるみたい。

それでも、その3D画像が映し出す構造はとても興味深くて、
秘密の構造を明かしてくれるかもしれない。
だから、ダメもとで試してみる。

まず、コブの箇所を多方面からスキャン。
次にそれについての熱心な問診が始まり、注意深く答えていく。
大きさ、形、種類に続き、それが出来た経路、時期や理由、重要性と意義。
それからそれに効くであろうと予測されるあらゆる治療方法。。


スキャニング画像を拡大したら見えてきたもの。
壁と壁の隙間に存在するいくつもの小さい穴。
お気に入りのスカーフの虫食いの穴みたいに一見見落としそうなほどの些細な穴。
マシーンじゃなくて人間であるが故に出来る“欠陥”という穴。
不完全さが大きな助けとなることもある。
そこから細い管を通して新しい酸素を注入しよう。

不思議なもの。

そうこう考えているうちに、怒りも治まってきたようで。。
あんなに煩わしかった首の痛みにさえも
なんだか愛おしさを感じ始めている。

ははぁ。。こういう事ね。
「全ては“愛”よ、“愛”」が結果自分の答えらしく。。

バランスをとることに精一杯で、気にかけてあげられなかった不安の種たち。
時にはその存在を認めてあげる事で全てが解けることもある。
行き場を失ったそれらの感情たちは、
可哀想な迷い子みたいにあっちへ行ったり来たり。
自分が何者なのかも分かっていないみたい。
事実、不安なんてただの煙のようなもの。
煙は空気に紛れ、知らず知らずのうちに消えていくんだから。


首の筋のズレ。
スカートの裾の左右のズレ。
勢い良く引いた口紅のズレ。
押し付けたハンコの微妙なズレ。
価値観の違うカップルの明らかなズレ。
夢と現実の間の切ないズレ。
心と頭がぶつかり合うなんとも不快なズレ。

その周辺で鳴り響く不協和音に、時々耳を塞ぎたくなるけれど。。
そこにある種の“愛おしさ”を感じ取れるくらいの柔軟性が欲しい。
それはきっと自分自身を救ってくれる武器になる。

今、一つ一つの骨の位置をゆっくりと確かめてるところ。

この首、明日はもうちょっと良くなるかな。。



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