30 Dec 2015

小さなスパーク



面倒くさいのに追わずにはいられない。
掴めやしないのにトライせずにはいられない。
時間の無駄なのは分かっているのに費やしてしまう。

そんな感情と頭との間に生まれる葛藤は、
時々”Passion”と呼ばれることがある。

頭上のシャンデリアみたいに
キラキラと柔らく輝いて部屋を優しく照らすもの。

お金なのか、愛なのか?
と聞かれると、
迷わず”どっちも!”と答える。
それは全て内なるそのスパークの為だから
決して欲張りでもわがままでもないでしょ?

(君はいっつも、そして昔っからそうなんだから!)

あら、その声は?!

新しい家具の配置に、
ソファの生地選び。
手を出したことのないスパイスから、
廃盤になった本の収集まで。
言い並べたらキリがない。

「見てみなよ、こんな小さな部屋なのに
あらゆる物が転がっている。もう十分でしょ!」

心が引き寄せられるあらゆる方向へ、
次から次へと手を出すくせに、
辿り着いた海辺で大きな貝殻を見つけたのなら、
もう朝まで帰ってこりゃしない。
これはもう性分というもの。

人の性格はそんなに簡単に変わるものじゃない。

砂で埋もれた海水の中に、
一瞬でもキラッと光るゴールドの粒を見つけたのなら、
どこまでも掘りおこして見つけ出すまで
絶対に諦めない。
というか、諦められない。

あなたが思うより私は気まぐれじゃないのよ!

と言いたいところだけど、
それもどうやら十中八九当たってる。

だけどそこには、ちゃんとした理由があるんだから。


心の中で爆ぜた一瞬のスパークに
我が人生においてAクラスの価値を置いている。

目に見えないそのスパークは、
空気に触れた瞬間にダメになってしまうかもしれないし、
煙と化して消えてしまうかもしれないから、
ぼんやりと見逃してしまうなんて、勿体ない。

きっと、まぼろしに決まってる・・

(本当にそれでいいの??)

と、またもや天の声が囁いてくる。

そのスパークに何か意味や重要性があるかなんて、
後から考えればいいんだから、
とにかく手を伸ばしてキャッチするんだよ。

そう、あなたの言う通り。
一生なんて本当に短いもの。
もしも奇跡を起こしたいのなら、もっと集中、もっと我武者羅に!

耳を澄ませば、
心の中の火がパチパチ音を立てながら密かにそう叫んでる。

「あら、我武者羅にですって?」

「そんなの無理!野蛮極まりなくってよ!」

おっしゃる通りでございます、淑女の皆様。
それは、とても激しいものなのです。

今すぐ、シルクのグローブを脱ぎ捨てて
素手で勝負しなければ掴めないものなのです。

綺麗に整えておめかししたネイルもこの時だけはご免遊ばせ。
節だらけの指にゴールドのリング。
剥がれかけている絆創膏がなんともシュール。


寒さでシワシワになった両手をみつめながら、
「ハァ。。」
なんて深いため息をつかないで。
それは何かを生み出す手。
働き者の魅力的な手。
その傷だらけの手にはあなたの純真さとひたむきさが映るから、
ただただ美しいと思う。
小さなスパークはきっとそんな手の内にやってくるもの。
少なくとそう信じていたい。

*

今年もあっという間に終わりが近づいて、
この一年を振り返ってみたり、
来る年に思いを馳せてみたり。
少しセンチメンタルな気分に浸るのが毎年の恒例行事。

いつもブログを読んでくれている数少ない皆様、
今年一年、ただつらつらと書いたり書かなかったり、、
取り留めようのない私のつぶやきを
一緒にシェアして頂きありがとうございました笑。

2016年に向けていざ乾杯!
シャンパンでも飲みながら、
ぜひ心に弾けた気泡のような小さなスパークも、
どこからともなく訪れるひらめきも、
決して見逃すことのなくキャッチしていけますように。。


来年もどうぞよろしくお願いします!


Ai Suzuki


15 Dec 2015

So Original.



  もうずうっと長い間、
ほんの指先だけで辿っていた地図の中の細長い小道が
今、現実に目の前に現れ始めている。

気がつけば、目に映る光景も通りすがりの人々の顔ぶれも
どことなく変わっていてまるで新しい土地にでも引っ越したような気分。
そこに、行き先を尋ねてくる見知らぬ通行人。

「奥様、どちらへ?」

(えっとですね、、とりあえず奥様じゃないですし)

「あなたはどちら様ですか?」

と半分イラッとしながら聞き返してみる。

すると、しばらくの沈黙。
ピクリとも動かない無表情が「誰でも結構」と言ってる。
この人、無視出来なさそう。。
参ちゃったな、、
さてさて、なんて返事しようかしら?

”これからの未来”

・・てのはつまらないし、当たり前。
それに答え方としてセンスがない。

”理想の未来”

うーん、あまりに多くありすぎて選べない。
お金に子供に家族に時間。
素敵な家具にヴァレンチノのドレス。
眺めのいいアトリエに、それから、それから。。
あぁ、逆に惨め。


もごもごと口ごもっている目の前の相手に呆れた様子で
その通行人は次の質問を投げかけてくる。
あ、舌打ち!?
ひょっとして少しイラついてる?

「奥様、それではどんな道がお好きで??」

(だから、奥様じゃないってば!)

ふぅ、もういいや。

好きな道”

なんかイマイチ。

幸せな道”

ではあるけれど。。

うぅ〜ん、もっとしっくりくる表現があったはず。

そうだ、
私が求めているのはこの形容詞かもしれない。

オリジナル!”

これが一番ぴったりでしょ。
そう、私は”オリジナル”な道が好き。

それは舗装されていない素敵な凸凹道。
おまけに雑草だらけでお世辞にもキレイだとは言えないけれど、
この道が好きだと今胸を張って断言できる。


自分の前のみに続いている先の見えない獣道。
おぼつかない足取りに、絡まりつくツタのうねりがとても魅力的。
ジャングルの中にまだ発見されていない種の鳥が生存するように、
沢山の可能性を秘めている魅惑的な景観には、
自由な”想像”の喜びを残してくれているみたい。

「さぁ、これからどんな風に仕立て上げよう?」

そのワクワク感がたまらない。
ファッションデザイナーが一枚の布から服を作る気分って
こんなかしら。。
一流のジュエラーが一粒のダイアモンドから
世界にひとつのリングをデザインする時間のように。

ちょっと待って、、

さっきから道のあちらこちらでチラチラと目に入ってくる何かがある。
よく見ると、足元には紫色の小さな花が咲いていている。

「あらスミレさん、そんなところに居らしたのね!
なんて控えめなの!」

するとミス・パープルは答える。

「あら、これが私の在り方よ。」


あぁ!あなたにも!
オリジナルな咲き方、
それは彼女だけのオリジナルな魅せ方。
オリジナルな着こなしは、オリジナルな歩き方と同じように
その人の内側を反映する。
オリジナルな話し方にオリジナルな表現方法。
それらはきっと、そこにその人なりのオリジナルな考え方、
オリジナルな生き方が存在しているからで。

だけど、"オリジナル"でいることは意外と難しい。
オリジナルでいようとすればする程、空回り。
やっとゲットしたと思ったら、
無意識に誰かのコピーだと判明してがっかりしたり、
オリジナリティーを追うだけの日々を送れば
結局、哀れな囚われ人。
それもそのはず。
それは生まれるもので作り上げるものではないんだから。


手先がどれほど器用でも、
メレダイヤを敷き詰めた王冠を仕上げるには時間が要る。
視力がどれほど良くても、
物事の見方がずれてしまえばすべてが曇りガラス。
弁がどれほど立っても
人の心を掴むには経験と知恵が要る。

最初は誰かの真似から、
或いは、
憧れから始まるかもしれないオリジナリティーへの旅の道中では、
自分の肌に合わないあらゆる不純物は取り除かれて、
省かれて、淘汰されて、
最後に残る一握りの金の砂を見つけることのよう。

本当の“オリジナル”とは指紋ほどにユニークで、
唯一無事のアイデンティティー。 

そんな訳で、、

最近は「かわいい」と言われるよりも
「Your are so original!」
と言われたい。

-

あ、さっきの通行人!
まだこの辺りを行ったり来たり。

色んな人に質問を投げかけては困惑顔。
どの答えにもなんだか納得いってない様子ね。

あの人もきっと探しているところ。
自分だけのオリジナリティーを!

今すぐ走って言って伝えてあげるべきかしら?

あなたのその歩き方はとても魅力的だと!




31 Oct 2015

Love me, Love me!




あぁ、かわいい彼女に新しい恋の予感。
ヴァレンタインはまだまだ先だっていうのに。

あれ?

あの子ってこんなだったかしら?
いつも冷静沈着で、何が起こってもポーカーフェイス。
誰よりも大人びてて落ち着き払ってるくせに。

見てよ、あの子の顔!

赤いほっぺたに、真っ赤なリップ。
ハート型のピアスに、ネックレス。
目にうっすら涙なんか浮かべちゃってる。

それにさっき、見かけちゃったの。
バスの中で肘つきながら空一点を見つめてるところを。
一体、何があったの?
どこへ行くっていうの??

あら?

こんな曲、彼女にしては珍しいじゃない?!
アメリカンなレトロポップスなんて。
シンプルでありきたりで分かりやすい歌詞。

こんな彼女は見たことがない。
まるで夢見がちだった幼い頃にタイムスリップしてる。

全くもって驚きだわ!
キューピッドの矢がどこかしらか飛んできて、
彼女のハートを突き刺した。
なんてスウィートな痛み!


あの子はただ、街の交差点を歩いていただけ。
もしかしてそれは失敗で的が外れただけのただの流れ矢?
狙ったわけでもなんでもなかったりもする。
だけど見てよ、あんな風になっちゃうなんて。。
ほら、今もあの子の心の声がそこら中に鳴り響いてる!

「Love me , Love me!」 って。

体中の”トキメキ”が止まらないってのがバレちゃってる。

「本気になったりしたらダメよ!」
って忠告したいけれど、
「きっとまた痛い目にあうんだから!」
って警告もしたいけれど、

ハァ、もう既に時遅し、、

She is looking for a trouble みたいね。

*

そう言えば、

”トキメキが欲しい” と、ちょうどこの前誰かが言ってた。
どこに行けば”それ”を見つけられるか?だって。

”トキメキ”って、目に見えないけれど
誰もがとてもキラキラしたものだって知ってるはずで。

それはきっと恋に落ちた時の、
あの抑えられない幸せな衝動に一番近いからかしら?

モノとの出会い、人との出会い、
あるいは場所との、出来事との
思いも寄らない巡り合わせの中で発症する心地よい熱を帯びた感情。
言い換えれば、
まるで幻の宝物を偶然探し当てたような
奇跡のような贈り物。

そんなに特別じゃぁ、滅多に起こるはずないじゃない!


だけど例えば・・

90歳を過ぎたおばあちゃんが、
綺麗に塗られたラベンダー色のネイルを見た時の目に映る輝き。
まるで粉雪が夜空に待って吹き上がる光のスパークル、
言葉に変えられない感動の稲妻が彼女の心の中に花を咲かせるように、
それはどこで生まれるのか分からない。

それに、それってただ天から「はい、どうぞ。」って
降ってくるわけじゃない。

「これまで」があるからこそ見えてくる景色。
周りまわって辿り着いた今のランディング地点にふさわしい出会いが、
ふさわしいタイミングで遭遇した時にだけ
感じ取れる意味を成すその出会いの価値。

天の声:(またまたそんなつまらないこと言いだして!
その分析癖、本当に悪い癖だわ!)

それに恋も同じ。
昔にあんなにも夢中になった誰かに、
今の自分がまた同じように夢中になるとは信じ難い。
とてもロマンチックではあるけれど。。

天の声:(まぁ、なんて冷めてるのかしら!)

だって経験を積めば同時に知識もついていく。
無意識にもキャッチする情報も変わっていくし、
感覚だってそれなりに育っていく。
つまり、成長するってことね。

天の声:(それと”トキメキ”がどう関係あるの?!
あなたって、本当におヒマ。
他に考えることないの?)

それにしても・・
”トキメキ”が欲しいの願うのは、過去にそれを得たことがあるからでしょう。
だから、最後に”それ”と遭遇した時の自分とその状況を
冷静に観察してみるのもその居場所を知る一つの手がかりになるかも。

と言ってみたところで、、やっぱり心変わり。

天の声さん、あなたの言う通り、
もう堅苦しいことなんて考えないわ!!


”トキメキ”の正体や、どこからやってくるか、
いつ遭遇するのかなんて知りたくない。
予測する必要なんて全くなくってよ!

未知なるもの、ひとつでも多くあって欲しいから。

ただ、迎える準備だけはしておくの。
いつでもマインドはオープンに。

人の心はまるでライトキャッチャー。
だけど何をキャッチして光を集めるはその人次第。
だから晴れた日だけにきらめくって訳じゃないみたい。
ただ”心はクリスタルに”が必要条件。
不純物だらけじゃ虹色の美しい光は放てない。

*

そうして、あの子の小さな恋は、
ある日コンコンと扉をノックしてやってきた。
そして理由もなく心をかき乱した!
長い間眠っていた子供の頃の純真さを今目覚まさせちゃった。

あら、そんなに怪しまなくたっていいのよ。
だって、さっきも言ったじゃない。
それは、本当に稀に降ってくる奇跡の贈り物。
後先考えずに素直に受け取ればいいのよ。

それにしても、
あの子ったら本当に幸せそう!
あんなにファショナブルにもなっちゃって。
そして、とっても綺麗になった。。

あぁ、今願うは彼女の恋が成就することだけ!


・・・なんて、まっ赤な嘘。
あの唇と同じくらい。

私も恋していいかしら・・?

天の声:(わたしもちょうど、そう思ってたところ!)


24 Oct 2015

嵐と女。


 

 嵐は去った。

今となっては、よくあること。

八方塞がりだった状態は時間と共に緩みを増していって、
やっと通り抜けられるくらいの隙間を作り出したみたい。
柔らかく繊細なシルクの糸で編まれた布が
時を経て粗野なリネンに変化でもしていくように
ざっくりとした、でも肌馴染みの良い
柔らかな力強さに変わっていく。

嵐が去って、
女は生き残った。

もしかすると、それはまだまだ続いているのかしら。。
だってそこから立ち去ったのはこちらの方だから。

頼りない外壁でできたシェルターの中に居ては、
緊張や緊迫、不安や疑心暗鬼ばかり。
それらがもたらすものに
窮屈さ以外の何も感じないでいたけれど、
こうしてこっそりと扉を開けた目の前の空は
意外とカラッと晴れていたりもする。

それまでの記憶の一つ一つが
窓ガラスに張り付いた雫となって、
ただゆっくりゆっくり滴り落ちていく様を
肩越しに横目でチラリと見つめるだけ。

そこに少しの懐かしさと愛情を感じながら。

嵐がやって来れば、
女は強くなる。


「倒せるものなら倒してみなさい!」

少しニヤリとして見せたりして、
かなり挑発的。
その低い声の中にはもう落ち着きと余裕の色さえ帯びている。

これらの嵐は、全て乗り越えなければならない壁の数々。
不意に押し寄せるストレス。
無情にもかけられる負荷。

それらはそして全てサバイバルゲームへの
麗しいインヴィテーション。

やっと軽やかになった足取りをまたもや重くされるような、
まるで「よーい、ドン!」で始まる生き残りゲームを
遠隔操作か何かで誰かに仕掛けられているような気がするけれど、
強い女は逃げやしない。

「もう始まったらしょうがないじゃない!」
と開き直ったり、
「強い意志を掲げて戦うしかないんだから!」
と腹をくくって挑む覚悟だってできる。

そして分かったことは、
”女”ってほんとに強い生き物だということ!
他人が、それから自分自信が思っている以上に・・

それともただ単にこうかしら・・

立ち留まるのか進むのか。
二者択一の選択に差し掛かった瞬間、
頭ではとっさに後者を選んでいるという事実には、
人間生き残りのための脳内自動装置が備わっているというだけのこと。

「とにかくそこから遠くへ!」
迷いの無いストレートな口調のナビゲーションが鳴り響く。
すると、
その場でオロオロとした様子で立ち往生していた”こころ”の方は、
突然手綱で引きずられ、渋々移動。。

「とりあえずの被害は免れたでしょ!」っていうわけで。
これって、なんだか無理やりな応急処置。


嵐がやってきては去っていき、その繰り返し。
そして女はと言うと、、、


「こんなの、よくあることだわ!」
と、肩をすくめてみせる。
どんなに理不尽なリクエストにも
こんなに聞き分けがよろしくなっちゃって。。

あーぁ、少し歳を取ってしまったせいかしら。。。?

個人レベルでのサバイバル処方はきっと様々で、
スポーツに旅、歌に彫刻、それから料理、スカイダイビング、
新しい語学に自己啓発本にクスリに。。etc.
全てを掻き集める人の後ろでは、
全てを手放すことを選択する人もいる。
どれがベターともベストとも言えないもの。

そして自分の場合、
やっぱり新しい世界をクリエイトすることで
救われる何かがある。
時に荒れ狂う嵐のど真ん中に置かれても、思考は常に前方へ。
いつまでも前進していくことをモットーに、
胸を張って歩んでいく為に掲げる信念。

だけど時には、
「こんなに疲れ果てた心と体で、一体なにが出来るというの??」
というのが本音のところで。。

だから一旦休息をとって、全てはそれからに。
ほら、素晴らしいセルフマネージメントだってちゃんと備わっている。

さぁ、深く長い睡眠からやっと目覚めたら、
コップ一杯の冷たい水を飲み干そう。
そうすれば、デトックス茶でも飲んだみたいに、
このずっしりと重たい頭がきっとスッキリするはず。
それに、
体の所々に残る筋肉痛のような痛みは長い戦いで勝ち取った”勲章”というもの。
アザも切り傷も多少の打撲も、
きっとすべて美しいと自慢できるはず。

嵐の後に、
女はまた新しくなる。


もう一度ゼロからのスタート。
吹き飛ばされ消えていったアイデアやイメージはもう必要ないんだから。
白紙撤回された文書をもう一度始めから書き直すように、
新しい視点と好奇心とスタイルで。

コツコツと今やるべきことを積み上げていこう。
四角い砂糖の塊からだってピラミッドを目指すように、
その先に大きな何かが出来上がるというもの。

いつでも前進あるのみ。

「嵐よ、いつでもやってきなさい!」


16 Aug 2015

マリッジリング



 360℃からぶつかり合うセミの激しい鳴き声と、
頭のてっぺんから降り注ぐ真夏の太陽が
熱帯雨林にでも迷い込んだ気持ちにさせる8月の午後。

吹き出す汗がまぶたにも・・
まつげを下って落ちるから、数メートル先の人の姿も
時ににじんで見えたりもする。

レモンを思いっきりかじった時みたいな
あのシャキッとした身が引き締まる感覚が欲しくて、
一旦通り過ぎた自動販売機で炭酸ジュースを買う。

年々暑くなる日本の夏。
“風情”を感じるどころか、汗を拭うことに精一杯で。
だけど、道添いの植物はこの上なくキラキラしている。
素足で履いたサンダルの可愛さとは裏腹に出来たマメの痛さも、
夏の輝かしさが拭き払ってくれるみたい。


(この季節に結ばれた二人は、きっとこんな力強い夏のような
固い絆で結ばれるんだろうな。。)

そんな思いに浸りながら手がけた初めてのマリッジリング。

本当の意味で“想い”を込めるということが、
どんなに楽しく、重く、そして価値のある行為かということを
身体で感じた気がする。

数ヶ月前に友人から頂いたリングのオーダー。

どこにも見たことのないマリッジリングを作りたくて、
「コレはきっと難しいぞ!」と内心思っていたのに、

“あれ?”

アイデアはいとも簡単に、そしてストレートに手の内に落ちてきて、
すとんとランディング。
デザインで悩む暇もなく進む幸せの作業。

「こんなんでイイのかしら。。?」

なんて、思わず躊躇してしまうほど。

インスピレーションとは不思議なもので、
探していると目隠しされるのに突然向こうからやってくる。

そして今回のインスピレーションは彼女がくれたもの。
言葉でない何か、“印象”。
ライトキャッチャーみたいに小さな光の破片が飛び散って
その人の詳細を反射で投影する。
これこそ、ポエティークが捉えて形にしたいもの!

自然と昔好きだったキャロンの“Fleur de Roccaile”という香水が頭に過って、
芯のある女性の姿が交差する。
“岩間に咲く花”という意味のその響きの中に彼女の姿が重なったのかも。

ふわふわと空中を浮いているような乾いた空気じゃなくて、
日本の夏のような、
湿度を含んで地面に近いところに存在する空気。
そんな空気を持った一人の大人の女性をイメージしながら、
手にしたワックスを彫っていく。


欲しいのは、“石”のような質感、そして、
その無機質な表面の奥にある人の温もりのような温度。
固いメタルも人の体温が伝導しすると、同じくらいの熱を帯びるもの。
特にリングのように最も近くに在るものは、
知らない間に自分の体の一部になっていく感覚。

さて、今回はペアリング。
男性用のリングを作るのは初めてで、
「女性っぽくなってしまわないかしら。。」と苦戦するかと思いきや、
自分のデザインへの嗜好がどうやら女性的なものに限らないことに気がつく。
それが今回の新しい発見でもあって、なんだか嬉しくなる。


オーガニックな形、自然が生み出す造形美。
そこにモダンな感覚を吹き込んで、
性別を越えて身につけられるリングを、ここにマリッジという形で。
ふたりの絆を祝福して“石の華”と名付けようかな。

ポエティークが目指すマリッジリングは、
凛とし生命力を感じさせるデザイン。

平らでない凹凸のある表面が小川を流れて丸くなっていくように、
形が変わって行くことに抵抗を覚えず、
二人陽気に転がり続けていけるようにという思いを込めて。

ポエティーク初のマリッジリングが完成しました!

お二人に、ポエティークに、おめでとう!




*マリッジリングのオーダーを承っております。メールにてお気軽にお問い合わせ下さい。 info@poetique-bijoux.com




7 Jul 2015

Chance is yours.



「This way, please!」

お客様、こちらへどうぞ。

訪れたことのない真新しい場所。
属したことのない環境。
出会ったことのない人々。
同じ言語を話しているはずなのに意味すら通じないような時、
短くて一瞬、長くて1週間程,
自分が宇宙人にでもなった気がする。

年齢を重ねればそれなりにその“違い”を冷静に捉えられるけれど、
やっぱりちょっと気が滅入 ってしまうこともあって・・

「はい、はい、そうなのね。」
って玄人並みなやり過ごしの裏側で、
「オーマイゴーッド!!」
の叫びがあったりもして。

場所においてはどこが入り口でどこが出口なのか分からない。
同じに見えるいくつもの扉の1つを開ければ
そこは行き止まり。
あるいは倉庫。
あるいは身も知らない他人の事務所?!

あららら・・

私ってどこから来てどこに行くのかしら??
「ここはどこ??私はだあれ?」状態。
そんな馬鹿な!
適応能力にだけはいつでも自信があったはずなのに、、

「お客様、こちらですよ〜」

涼しい口調の天の声。
そして、あとはとことこついていくだけ。
ぽかんと口を開いて、ちょっとおバカな子みたいに。

能天気。
無防備。

そんな危なっかしい隙だらけの人間への淡い憧れを
心無しかたまに抱く時がある。
いや、実のところ常に憧れてる。

ゴーストみたいにフワフワと
足跡を残さずに壁と壁の間をするりと通り抜けてみたり、
空っぽになった抜け殻状態の身体に空気を満タン入れて
浮き輪のようにプールにプカプカと浮いてみたり、
笹の葉の船になって小川のせせらぎに身を任せながら
サラサラ気ままに支流を流れていったり、
そんな軽さ。

イメトレしたらそんな風になれるかな?


7月7日、今夜は七夕だし、
いつもとは違うこんな願いをかけてみようか。
この際、笹の葉サ〜ラサラ♫
なんて口ずさみながら、普段は口にしないビールなんて片手に
行方不明の天の川を想像してみる。

笹の葉の船に乗って漂う夜の街。
この東京には星の数ほどの人々。
みんな頭の中は何を考えているんだろう。。

ラッキーな人もいれば、不幸な人もいる。
全てが平等だなんてこのご時世到底思えない。
最近、ちょっとシニカル過ぎるのも問題ね。。

「星」が指すもの。
それには、いつでもポジティブで明るさに満ちた響きがある。

未来、希望、期待、目標、可能性、ひらめき、夢、光、チャンス。

そう、チャンス!

この世の中で全ての人に降ってくるもの。
チャンスなんてそこら中に転がってるって、
優れたアイデアマン達はよく口にするけれど。。
彼らが特別な眼鏡をかけているっていうの?

道路に1枚のイチョウの葉っぱ。
ただ素通りするか、一瞬立ち止まってそれを手にするかはその人次第。
チャンスは誰かがそれを“チャンス”として拾い上げて
何か次に繋げてくれるのをきっと待っている。

(次のコレクションはコレだな!)


雲で覆われた夜空の向こう側。
こんな梅雨の曇り空じゃ、星一つ見つけるのも難しい。
それでもどこかでチラチラと光るものを探してみる。
あ、あそこ!
もしかして飛行機、航空障害灯、まさかUFO?
なんだっていいや。
綺麗だもの。

大きな障害物だと思っていたものが、
ひょっとしたら人生の岐路を変える程の
一大チャンスへと自分を導いてくれるかもしれない。
時には根拠のない期待を持つことの大切さを
“星”の存在がそっと耳打ちする。

「ピンチをチャンスに!」

が今月の合い言葉。

重力に引っ張られて頭も心も垂れてこない内に、
鼻先の向く方角を変えよう。

あぁ、それにしても・・・
こんな梅雨空では天の川はきっと期待出来ないわねぇ。。
あの二人にとってはそれこそピンチ!
会えずにまた来年だなんて。。
そのうち乙姫は皺だらけのおばあさん。

それでも、、、真実の愛はきっと歳をとることはないでしょう。
そんな意味でこのピンチは愛を深めるチャンス、ってことにして。

取り留めのないひとりおしゃべりも
今宵はこの辺りでおしまいにしよ。。

I wish upon the star!




15 Jun 2015

彼女のポリシー。



「さあ、行こう!」

彼が今、希望に満ちた手を差し出した。
その誘いがあまりに急すぎて、直ぐに答えられない彼女。

恐がりが第一の弱点。

「警戒なんてしてないわ!」

彼女の言葉に偽りなどない。唯・・
自分の心のどの辺がどの位エキサイトして、
残りのどの部分のどれ程がためらいや臆病さを感じているのか、
まずはちゃんと確かめたいという欲望が邪魔をしている。

考え過ぎが第二の欠点。

肝心な時に限って彼女はしどろもどろ。
気がつけばもうそのエピソードは終わっているし、
目の前にあったはずの彼の手も行方不明。。

ページをめくってはまたもとに戻すことを繰り返してる。

「えっと、、この気持ちはどの引き出しだっけ?」

Oh, Rose!

あなたの時計の針はいつも同じところでつまずくの、
もう気づいているかしら?
時代錯誤の迷路に迷い込むのがあなたの趣味なのね。。

週毎に展開するTVドラマに向かって、
“一旦、持ち帰って考えさせてください”なんてのは、
勿体ぶっていていささか苛つかせるっ!
いつもそう言ってるくせに、自分のことは全くわかってないんだから。。

あぁ、皆様、
こんな哀れな娘にご慈悲を!

Oh, no!  Rose!

このストーリーはあなたのものなのに!


彼女はあるポリシーの上に立っている。
それがどういうものか聞けばきっと教えてくれる。
彼女に隠し事なんてないんだから。
実際、全ておおっ広げ!
もうちょっとミステリアスになればもっとモテるのに、、
って周りにだって言われてる。
だけど、それが彼女というもの。

頑固。
恐がり。
寂しがり屋のお天気屋。
超現実的な夢想家。
洞察力が異様に長けていて、
逆に身動きがとりづらい。
忍耐強さがあるが故に見逃すタイミングの良い引き際。
情熱的だと謳われながらも、
冷めている自分の側面もちゃんと知っている。
美しさにただ憧れるよりも、
なぜ“美”は人を心地よくさせるのか、
その理由を知りたい。
「こうなりたい」という願望もない。
それは現状への満足や余裕からでなくって、
単にそれを“おもしろい”と感じないだけ。
そんな事より、
どうして人は願望を持つのか、その理由を知りたい。

彼女は知りたい。
まだ知らない未知の様々なこと。
小さな胸の内は静かな好奇心で満ちている!

まだ見た事のない外国の砂の色、
何色もの繊細な色を帯びた地層の幅、
綺麗な料理の盛りつけ方法、
美味しいと感じる食べ物の組み合わせ、
聞いた事のない言葉で交わすコミュニケーションや、
ウィットに富んだ会話と呼ばれている数々のおしゃべりetc..。


歪みのあるガラスドームの中、
一輪のバラの花がそのガラスの向こう側に拡がる世界を見つめている。

その眼差しはひどい近眼の人とまったくおんなじ。
自分を取り囲む周りの世界を必死に把握しようとするように
目を細めじーっと一点集中。

手作りのガラスの表面が真実を少しだけ湾曲させるから、
答えを出すのにいつでもちょっと時間がかかるのね。

彼女はそれらの中に真実を見つけたい。
だけど“真実”とは一体何なのか、彼女も知らない。

一体、あなたは何が欲しいの??

すると彼女は答える。

「言い訳でない本当の理由。
ミステリーでないノンフィクション。
修正のない音源の在処よ。」

これは暗号か何か?
私にはさっぱり分からないわ!

彼女がこの世界に求めるものには、解釈の難しい独特の色を帯びている。
彼女だけが抱えるポリシー。

ガラスの向こう側でいつでも上の空って見せてるけど、
あぁ、彼女の頭の中は今にもパンクしそう!!

ちょっと思い込みが過ぎるんじゃない?
ローズ、あなたはどうしていつもそんななの?

そんなんじゃ・・・



ある日、彼女は私に言った。

目的も意図も持たずに出発した星の王子様にちょっと嫉妬を感じてるんだって。

「出発したかったのはこの私なのに・・ガラスなんかで覆わないでよ!」って。

好奇心が彼女の生命線みたい。
もしもそれが無くなってしまったら。。。
あぁ!彼女は死んでしまう!
彼女に新しい酸素を!

だけど、彼女は死なんかよりも孤独が怖い。
気の優しいその人は、それを決して口に出して言わないけれど。
私にはちゃんと分かってるんだから。

Oh, Rose...

その生き方はあなたのもの。
純粋過ぎる一途なポリシーは何故に?

「だって、私は夢になんて生きたくないもの!」

ですって!




to be continued...




22 May 2015

愛しいズレ。



まただ。。もう!

寝違えた首の痛みだけでその日一日のパフォーマンスが何かと悪くなる。
つまずいたり、忘れ物をしたり、
美味しいはずの朝食のパン・オ・ショコラさえ味気なくさせる。

イライラ、イライラ。

天気はこんなにもいいのに本当にもったいない!
どこにいたってつきまとってくるから逃げ場もない。

骨と筋がちょっと喧嘩して、お互いがご機嫌斜め。
そんな喧嘩に頭から巻き込まれているわけだから、、無理もない。

何かがズレている感覚。
こんなことってよくある。

朝の天気予報に踊らされて傘を持っていったら日が射し始めたり、
ウール100%のセーターをうっかり洗濯機で洗ってしまったり、
ほつれたコートのボタンをつけた後に数センチ場所が違っていたり、
必要な時に肝心な赤色の色鉛筆が見当たらなかったり、、


ただまっすぐ立ちたいのに、
あっちからこっちから引っ張られて上手くバランスがとれない。
「もう放っておいてよっ!」って言いたいくらい。
集中しようとも意地悪に、
小さなちょっかいを次から次へと出してくる。
何かと面倒くさいズレとの付き合い方。

心と身体は一つだって言うから、

「あなたの首は至って正常。何の支障もございません!」

って、繰り返し自己暗示を試みるけれど、
身体の不快感はなかなか手強い相手。
ビクともしない。

そんな中、心の中に住んでいた小さな不安たちが、
「今がチャンスだ!」と言わんばかりに、
一瞬を狙って外に出ようとする。
封印されていた扉が開く。
そのうち、大きなコブの固まりみたいになって両方の肩に乗っかってくる。

首のズレから引き起こされる心のズレ。
ネガティブ思考への急降下。

ダメ、ダメ!

涼しい顔の下になんとかバランスを保とうと必死な自分。
深呼吸でさえ、頑張ってする。
バランスこそがこの平均台の上では一番重要だと言い聞かせて、
その技も自分なりに習得してきたつもりでいたのに・・

「そろそろいい加減にしてよ!!!」

あんまりしつこいと最後は逆切れしてしまって、努力も全て水の泡。

自分を支えていたはずの命綱がそのテンションに耐えきれなくなると、
怒りと共に音もなくプツンと切れてしまう。
無理して留めていたとれかけのボタン、
ついに本日をもちまして終了。。みたいな。


さあ、どうしよう?!

そのまま真っ逆さまに下に落ちるか、
それとも、
新しい技かなんかを思いついて助かるか?

こんな修羅場では、バランスも何もあったものじゃない!
羽が生えていれば別だろうけれど、
そうだとしてもこんな緊急事態にはそそのことをきっと忘れている。

思考の柔軟性。
それに賭けるしかないみたい。
残りの冷静さを出来る限り寄せ集めて、
少々、無理矢理なくらいに頭を使ってみる。

「さぁ、頭を使ってこの状況自体を3Dにイメージしてみましょう!」

自分に言い聞かせてその通りやってみる。

「次にその面を全てスケルトンにしてください。さぁ、何が見えますか?」

おぉ!
これはすばらしい!
新しい答え、
難題はすべて解けた!

・・・なんてすぐに上手くいくはずなくて。
頭脳系の作業に不慣れな人間にとっては特別な訓練がいるみたい。

それでも、その3D画像が映し出す構造はとても興味深くて、
秘密の構造を明かしてくれるかもしれない。
だから、ダメもとで試してみる。

まず、コブの箇所を多方面からスキャン。
次にそれについての熱心な問診が始まり、注意深く答えていく。
大きさ、形、種類に続き、それが出来た経路、時期や理由、重要性と意義。
それからそれに効くであろうと予測されるあらゆる治療方法。。


スキャニング画像を拡大したら見えてきたもの。
壁と壁の隙間に存在するいくつもの小さい穴。
お気に入りのスカーフの虫食いの穴みたいに一見見落としそうなほどの些細な穴。
マシーンじゃなくて人間であるが故に出来る“欠陥”という穴。
不完全さが大きな助けとなることもある。
そこから細い管を通して新しい酸素を注入しよう。

不思議なもの。

そうこう考えているうちに、怒りも治まってきたようで。。
あんなに煩わしかった首の痛みにさえも
なんだか愛おしさを感じ始めている。

ははぁ。。こういう事ね。
「全ては“愛”よ、“愛”」が結果自分の答えらしく。。

バランスをとることに精一杯で、気にかけてあげられなかった不安の種たち。
時にはその存在を認めてあげる事で全てが解けることもある。
行き場を失ったそれらの感情たちは、
可哀想な迷い子みたいにあっちへ行ったり来たり。
自分が何者なのかも分かっていないみたい。
事実、不安なんてただの煙のようなもの。
煙は空気に紛れ、知らず知らずのうちに消えていくんだから。


首の筋のズレ。
スカートの裾の左右のズレ。
勢い良く引いた口紅のズレ。
押し付けたハンコの微妙なズレ。
価値観の違うカップルの明らかなズレ。
夢と現実の間の切ないズレ。
心と頭がぶつかり合うなんとも不快なズレ。

その周辺で鳴り響く不協和音に、時々耳を塞ぎたくなるけれど。。
そこにある種の“愛おしさ”を感じ取れるくらいの柔軟性が欲しい。
それはきっと自分自身を救ってくれる武器になる。

今、一つ一つの骨の位置をゆっくりと確かめてるところ。

この首、明日はもうちょっと良くなるかな。。



15 May 2015

5月、ハレルヤ。



部屋中の窓を開け放つと流れ込むそよ風が
窓辺のローズマリーの香りも一緒に運んでくる。
そんなんじゃ、昼下がりの仕事も一旦中断してちょっとだけ
ベッドに横になることもきっと許される。

10分だけ。

頼りない自分との約束。
今頃、随分な骨折り作業に没頭している君に対して
どこか後ろめたくはあるけれど。。
ほんの10分だけ、いいでしょう?

「ハレルヤ、ハレルヤ!」

いつもはラジオなんて聞かないのに急につけたくなる時がある。
ほとんどは、iTuneに入った音楽の中から聴きたいものが見つけられない時。
そして今日もそんな日。

インターナショナル系列のラジオ局から流れたのは教会の賛美歌と
その合間合間に響く牧師の説教。
何を聴きたい訳でもなかったし、
結局なんでも構わない。
このソワソワ感を紛らわせてくれるものだったら何だっていい。

午後3時。
だけどきっとあっちは真夜中過ぎか早朝のはず。
こんな地味なラジオをこんな天気の良い午後にひとり部屋で流しているなんて、
一体どんな奴だ??
って下の住人に聞こえたら、きっと思うかも。

風がさぁっと部屋を横切る。

生温いフランス語の響きがちょうど良い子守唄に変わる頃、
洗い立てのシーツに顔を埋める。
そう、子供の頃よくしたようにその穏やかな匂いを肺一杯に吸い込む。

これが“太陽の香り”だと信じきって。


「ハレルヤ、ハレルヤ。。」

聖歌隊たちは唄い牧師は熱心に何か唱えているけれど、
何を言ってるのか分かんないや。
ただ分かることはある人は唱え、ある人はそれを聞き、
ある人は信じ、ある人は疑い、
その様子を見て
ある人は笑い、ある人は嘲り、
ある人は戦い、ある人は降参する。

言葉が何の役にも立たなかったら、あとは全て想像に任せるしかない。

こうやってふかふかのシーツに包まれていると、
大きな山のてっぺんにでも上った気分。
そこから数えきれない人々の行動を一枚の絵の中に見ている感じ。

「過剰な評価も感情移入もまったく意味がない。
今はそれをそれとして観察するだけで十分だ!」

って、私を説得しようとしているのはどこの誰?

「だって、今ここに在るのは自分しかいないじゃないか。
今、君はこの太陽の匂いに夢中なんだから!」とその声は続く。

長い休暇中に少し“緑”を吸い込み過ぎちゃったかな。。?
まるで自分の中に木の根が張って、
細い枝の先が上へ上へと伸びているみたい。
背骨を階段のように一段一段上っていく。


頭よりも先に夏に向かう中間点を体が感じ取っている。

もうちょっとだけ待って!
まだ未熟で準備が足りない。。
なんていった不安な気持ちを他所に
枝は太陽の光を浴びて毎日どんどん伸びていって、
私の身長を高く高く持ち上げる。

ちょうど、まだ読みかけの楽譜を前にメトロノームをセットされた生徒。
前にしか伸びない5線の上を、“つまずいてでも進め!” って言う
ピアノの先生の言葉が降ってくる。

沢山の準備と練習を重ねても100%にならない自信も、
とにかく前に進む事が大切だという教訓だったのかしら。。

思えば確かに最後には何とかなっている。

才能ではなく努力で立ち向かう物事には、しばしば自分の力の無さに落胆して
「やっぱり、才能には勝てない」って、ふてくれさることもあるけれど、
与えられた才能を花咲かすにも努力が必要だし、
努力を実らせることも人並みはずれた才能がいる。
いや、努力をし続けられることこそ才能なのかもしれない。
結局は同じ線上に立っている。

重要なことは楽器を弾き熟すことよりも、その曲を楽しむことだ!
そんなのも昔、先生言ってたな。。

練習や準備があまりに過酷だとそんな本質を忘れがちだから、
たまには訳の分からない外国語のラジオでも聞きながら
太陽の香りに埋もれてみるのも悪くない。

そろそろ10分。。

扉の向こうに必ず素晴らしい夏が待ち構えている。

5月、きっとハレルヤ!


29 Apr 2015

タイミングの問題。




「何となく今かな。。」

ふと、もう何年も前に買った本のページを今恐る恐る開く。
どこで買ったかすら記憶に乏しい一冊の本。
取り急ぎ、目次に目を通しながらある感触を伺う。

本当に今が“頃合い”なのか、吟味しているところ。

こんな習性はそんなに容易く断ち切れるはずもなくて。。

何年も着ずにクローゼットの中にしまったワンピース、
箱に入ったままの靴に香水、
綺麗な布貼りのノート、
イニシャル入りのハンカチ
真新しい筆、
アンティークの時計にジュエリー。。etc


買いたい欲望と使いたい欲望の間で度々起こるタイムラグ。

手に入れたその日から、少し時間を置かせる習性。
時間といってもそれが何日、何ヶ月、何年になるのか分からない。
来ないかもしれない。
それでも、ベストタイミングが来るまで開けずにいる。
“寝る子は育つ”って言うし。。

密かに“待つ”という意識も特になく、
ただ放っておくだけの放置プレー。
自分と向こうの“時”の歯車が、ちょうどぴったりと噛み合って、
最高のバランスで稼働しだすその時まで。

それは、ちょっとした運試しみたいなもの。
買い物のついでにちょっと試してみるだけの商店街のくじ引きのような、
どうでもいいと思う挑戦の中にも一握りの期待感。

もしかしたら、
ちゃっかりピタリ賞でハワイ行きチケットを獲得できるかもしれないし、
“ハズレ”の紙切れ一枚を差し出されて「ありがとうございました」で終了かもしれない。

ハズレなら、「やっぱりね。」と肩をすくめるだけ。
残念賞でも手に入る意外と便利な粗品。
全ては引いてみてのお楽しみってわけ。
どちらにせよ、そんなに大きな被害は被らない。

そんな行動の一連をただの質の悪い習性だと思っている彼女は、
「なんじゃ、そりゃ?」って呆れ顔。

いいの、だってこっちも同感。
ほんとにそれって「なんじゃ、そりゃ」だもん。

どうぞお気に召すままで。

これは参加してもしなくてもどちらでも良いゲーム。
選択権は誰しもが持っている。
勝ち負けのない遊びに過ぎないからエキサイティングでもないし、
禁煙を試みる人のような頑固たる覚悟も血のにじむ程の努力も必要ない。

すべてはタイミングの問題。

ギアが変わって、タイヤの滑りが急に変わるような感覚が
どこからか流れ込む瞬間を楽しみたいだけ。


例えばこんなこと。

どんな風にコーディネートして良いのか分からなかった服が、
ある日を境に簡単に着こなせるようになったり。
当初はそこまでピンとこなかったCDを久々にかけたら、
急にはまってリピートしてしまったり。
難しい哲学書のように言葉がランダムに飛びちって少しも読めなかった本が、
ある日ふと手に取ると、食い入るように読み込んでしまったり。
何年も疎遠だったほんの知り合い程度の人とばったり道で再会した日から、
あっという間に家族の一員のように親しくなったり。

ある時を境に何かの流れが変わる瞬間。

この真理についてはほとんど皆無だけれど、
思うに水面下では常に時計の針が一つ一つ前進していて、
何一つ停止するものはないようで。
個々はそれぞれの歩幅とペースを変えず、目の前のライン上を進むだけ。

そうしてシンクロしていくうちに、
やがて2本の独立した線が合わさるポイントがやってきて1本になる。

まるでラジオのチューニング。
最高の音を出力すためには、つまみの微妙な調整が必要になる。

きっと目に見えない程の無数の線が少しづつ傾きを変えているのかも知れない。
変化は絶えず起こっているということ。

これって河川での営みとおんなじ。

海へ流れ出るはずの川の水がいくつかの大きな岩によって塞き止められると、
脇へ逸れて間違った方向へと流れていく。
だけど、時を経てその大きな岩も水との摩擦によって
丸っこい石ころにになって、そのうち小さな砂利になって、
水が緩やかに下っていくのを見届けることになる。

時間を置かないと育たない関係性。
それってやっぱりタイミングによる超自然現象。

う〜ん、そうなると結局のところ、
「時が君を癒してくれるよ。」って言い放ったいつかのアイツの言葉。
ハッ! 悔しいけど、全く的外れでもなかったって訳ね。。


「今開けないで、いつ開けるの??」

軽い軽蔑の眼差しを向ける彼女。

“癖”を指摘された人は、それがどんなものでも
内心少しはっとして同時にしゅんとなったりもする。
恥ずかしさもあるから、自虐的に笑ってみせたりもする。
それがある種の暗さと皮肉さを帯びた癖であるならなおさら、、
「そんな風に言わなくても!」って反論出来ないのは、
自分自身、少々気後れする部分もあるからでして。。

うん、うん、分かってるから。

でも必ず来るの!

今回のゲームもやはりハートとモノとのチューニング。

そうして手に取ったこの本の第一章を読み始める。
ほら、やっぱり今回もアタリだ!



12 Apr 2015

The First Delivery.


「◯◯様、郵便が届いております。」

ポエティークのジュエリーをオーダーしてくれた方々に、
ファーストデリバリー。

新しく何かを始める自分へ、
これまで頑張った自分へ、
何かを新しい風を呼び寄せたい自分へ、

頂いたオーダーの向こう側にあるそれぞれの美しい願い。

本当のジュエリーの価値は、お金でもなく目に見えるものでもなく
その人との繋がりから初めて生まれるもの。
こうやってわざわざオーダーして頂いた理由を聞くと、
ジュエリーと人との関係性はとても個人的で
ハートから生まれるのものだと改めて思う。

始まりにも終わりにも、過ぎ去った昔にもこれからやってくる未来にも
一生のうちのどの地点においてでも、
人はモノを介して自分の思いを宿すことがあるけれど、
ジュエリーはそれを受けとる一つの器のような、
それも美しくその人の一番近いところで存在する特別なモノ。

一言で“ジュエリー”と言ってもそのカテゴリーはとても多様化していて
ファッション、アート、プロダクトなど様々な分野で存在する。

そんな中でポエティークのジュエリーは、
常に人が持つ温もりの部分に寄り添ったものでありたい。

完璧に磨き上げたものでもなく、
どこか呼吸が感じられる仕上がりがいい。
それにある程度の厚み、心地が良いもの。
繊細過ぎるのも、今ではどこか不自然であまり惹かれない。


今回のデビューコレクション“Rose"
きっと始めにバラの花をイメージする方も多いと思うけれど、
実はその名の背景にあるのは、“ローズ”という名のある女性像。

彼女は、ある館で働くメイドのひとり。
ベテランの彼女の仕事振りは常に完璧そのもの。

綺麗に整えられたベッド。
皺一つなくたたまれた洗濯物。
テキパキと仕事をこなす彼女に出来ないことなんてないみたい。
自分に厳しく真面目な彼女はいつでもみんなの頼れる女性。

ある日、そんな彼女のプライベートの部屋にお邪魔して目にしたもの。

それは、“ローズ”という女性としてのもう一つの顔。

扉を開けて拡がっていたその世界は・・・

アンティークの家具に壁に掛けられた沢山の絵画。
寝室から流れるオペラの調べに、積み上げられた詩集の数々。
香しいオールドローズが窓際に慎ましやかに飾られて、
まるでそこは18世紀のフランスにタイムスリップしたよう。
とてもロマンティックで女性的で。。

ムードと優しさが拡がる彼女の部屋に招かれて、
人は何か魔法がかかったように幸せになる。

「日曜日の夕方にはこうやってダージリンティーを入れて、
植物についての本を読むの。」

って、シルクのローブを羽織り1人ソファーに寝そべる彼女。

夕日に照らされたその横顔が少しピンクがかって見える。

まるで別人みたい!
普段は見えないローズのもう一つの世界。

彼女は仕事も愛しているけれど、人生はそれだけではないってことを
本当に良く知っている大人の女性。


彼女の大きなハートはいつでもオープンで、
まさにバラの花のように大きな自信に満ちている。
それは彼女の純粋さと気品からやってくるもの。

女性の二面性。
それは誰もがきっと持っている。

女性は感情的だって言われるけれど、
その奥でとても冷静な目でそんな自分を見ていたり。
感情のコントロールは、もしかして女性の方が得意だったりして。

感情的だからこそ、理性を求めるもの。
繊細だからこそ、大胆さを装うもの。
時に、女性はそうやって無意識にバランスを保とうとしているみたい。
少なくともローズの場合は。。

強さと柔らかさ。
2つの世界を持つことでとれる感情のバランス。
ローズがいつも輝いて見えるのは、
そんな幸せの作り方を心得ているから?

“ローズ”という一人の女性への感嘆と憧れを形にした
ポエティークのデビューコレクション。

尽きる事のない彼女の世界を少しづつ広げていくように、
ローズ・コレクションはシーズンレスにこれからも続いていくはず。
だって、物語はまだまだ始まったばかり!

さて、ローズが想像上の人物か否かはここではまだ秘密に。。

dear Sweet Rose...

 

*只今でしたら都内であれば直接お届けもさせて頂きます。
お気軽にお問い合わせくださいませ。