12 Apr 2016

The First Book




馴染みのある田舎道をドライブ中、
遅れ馳せながら”春”の訪れを感じてる。

その通りをいつもより数倍も魅力的にしているのは、
何を隠そうそこに咲いたサクラたち。
淡いピンクの花びらが定番ユニフォーム、
それを今年もちゃんと羽織ってその役目を果たしている。

早々に満開を通り越した子たち、
柔らかい風に身を任せてひとひらずつその身を散らせながらも
空に舞い上がってはまた輝く。

きっと自分たちの大舞台での魅せ方を知ってるから、
4月のこの時期にはこんな風に必ず咲き乱れるのね。

コンクリートの冷たいグレーと青になりきれない淡い水色。
それからグリーン、目が覚めるほどフレッシュで鮮やかな!
それらの色彩と完璧にコラボしたサクラの姿が、
なんてモダンで美しいの!
春は色で溢れている。


あぁ、今年は随分と短い冬を過ごした感じ。
冬ごもりの楽しい日々はあっという間、
温かい土の中の窮屈さに、居心地の良さを感じ始めたところだったのに、
あっという間に終わっちゃった!

何をして過ごしてたかしら。。
あまり思い出せないや、ひたすらに絵を描いていた以外に。

数週間前までの私。
ほぼノーメイクに雑に一つで束ねただけの髪。
酷い近眼用メガネはオシャレとは程遠く、よりオタク色を強めている。
剥がれたままのオレンジのネイルも然り。
どこかで引っ掛けて穴の開いたタイツに毛玉だらけのセーター。
そんなのすら、全く気にならなかったのは、
一点集中の証だったということにしておこうかな。

今回届いたミッションは「ぬり絵本」の制作。
大好きなルイス・キャロルの”不思議の国のアリス”を
ストーリー形式でぬり絵にしていくというもの。
イラストレーターにとって、なんとも心躍るプロジェクト!

そう、そのハードな詳細を聞くまでは。。


求められたのは新しい筆のタッチ。
あくまで「ぬり絵」な訳だから、線はシングルの単調さが不可欠で。
ある意味、これは目に見えない誰かとのコラボレーション、
相手にとっての塗りやすさが第一条件になる。
それは、描く上で今までになかった全く違うアプローチ。

それから人物、そして表情。
これまで”気配”や”雰囲気”を描き出す為にあえて避けてきたものが、
ここにきてまさかのお題になるとは!

そして最後に、スケジュール!!
「描けるかしら。。」なんて呑気にボヤいている余裕なし。
とにかく今すぐ描き始めないと!といった具合の短さと来た。
限られた時間の中でのペース配分は自分の能力を知る一番の鍵となる。

だから今回密かに付けたその名はズバリ、
”ミッション・インポッシブル”。

挑戦するのか、しないのか?
もちろん答えはYES!
1%でも成功の可能性があるのなら、
出来るか出来ないかの判断を下す前にとにかくやってみる。
身の引き締まるチャレンジというのはこういうもの。
こんな怖さが、案外好きだったり。


「インスピレーション、湧かなかったらどうするの??」

いつもなら抱きがちなその不安が今回はほぼゼロに近い。
「だってそんな不安がってる時間ないんだもん!」
が本音のところ。。
こんな状況下で要るものは、
流れ星みたいに予測不可能なものを必ず捕まえてみせる!
というより、自ら降ろさせてみせる!
そんな覚悟と姿勢だけ。
そしてそれは不思議と必然的に生まれてくる。



近道?
それももちろん考えた。
一番要領よく省エネで仕上げるコツは?
そして出た答えはと言えば、
こんな激流の中では精一杯確実な足場を組むことだけが、
自分にとっての唯一の近道だということ。


あら、だけどなんだか楽しいかも?
ちょうどサーカスでいう綱渡りみたいに、
失敗への不安と成功への期待の真ん中辺りが、常に私のベストポジションみたい。
向こう岸まで無事に辿り着けたのなら、
万歳、拍手喝采!
なんて清々しい気分!
そんなゴールをひたすらイメトレしながらの作業は始終苦しくもあるけれど、
同時になんとも言い難い楽しさもある。

そうして、3月の終わり。
春の風が流れ込むと共に私の”ミッション・インポッシブル”、
無事に任務完了!

消しゴムのカスだらけのデスク、
ぐちゃぐちゃに並んだの色鉛筆。
積み重なった何枚もの原画の束。
あぁ、描き終えた。。
ホッとするのと同時になんだか侘しさを感じる、、
って、ちょっと変ね。。


新しいイラストのミッションは、
いつでも儚い夢のよう。
その短いトリップの中で出来る限りの思い(これは愛?)と能力を傾ければ、
様々な面白い発見がある。

適当な挑戦の中では見えないもの、
真剣勝負でしか見えてこないものを垣間見た気分。
それは、大変さと厳しさの中で発揮される火事場の大チカラみたいなものが、
自分の中にもちゃんと在ることを知れるチャンスでもあったみたい。



さぁて、次は私も色をつけよう!
色鉛筆に蛍光ペン、水彩にパステル etc.
なんだっていい。
自分のインスピレーションを信じて自由に気ままに、
白黒の世界に息を吹き込むように。
ぬり終わった後に出来上がるのは、
世界でたった1つだけの自分の絵本になるのだから。



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世界が色づき始めたこの時期にはぴったりのこの贈り物を
ぜひ一緒にお楽しみください!