10 Jun 2014

Scent of a Life...





「今年はどれにしようか?」

6月の今日は誕生日。
この頃になると自然と頭をよぎる
重要な行事のひとつ。
それはとても個人的な、
そしてもはや今では儀式的にもなりつつある密かな楽しみ。

そう、それは新しい香水を見つけること!

そんな訳で6月の休日は専ら街中を香水ハンティングする。
何をする訳でもないのに忙しい。
女友達を誘うけれど、それはどこまでも個人的探求作業。

そういえば昔、デパートの片隅に小さなカウンターの香水屋さんがあって
学校帰りに母と一緒によく行ったっけ。
好きな香りを調合してくれるとても小さなお店。

「これ好き、これ嫌い!」

幼いながらにも、真剣に自分の好きな匂いを探した記憶。
スイカズラなんて名前を初めて聞いたのもその頃。
香りよりもなんとなくオシャレなその響きが好きだったりして。
”Emotion"と書かれた小さな三角形のガラスの香水瓶に
少しヨーロピアンに着飾ったおばさんが
手際よくスポイトで詰めてくれた。

あれから何年。。今はどんな香りを選ぶだろう?

それが私の香水の始まり。


学生時代のディプティック、
あの頃はとにかくジャスミンが好きだった。
それから、エルメスにヴァンクリーフ、
キャロンの「Fleur de Roccaile」
アニックグタールの「Eau de Camille」
ラルチザンの「Mure et Musk」に
フレデリックマルの「Portrait of a Lady」
なんていい香り!
だけど、これはまだ手を出さない。
まだとっておきたい憧れの香り!

飽きっぽさで有名な双子座生まれは
様々な香りを試すけれど、
選ぶその一瞬一瞬は無垢な程に真剣で
いつでもそれが一生自分の香りになると信じている。

それも次の運命に出会うまで。。
これってまるで。。?

*


香りはその時々の自分の心情を移す鏡のようなもので
その旅は遠い過去までさかのぼる。

記憶を呼びおこす魔法の一滴。
例えばこんなもの。。

幼い頃に道ばたで摘んだ草花の
青さと苦さ、
祖父母の家の
隅々まで染み込んだ白檀の香り、
晴れの日に干したシーツ、
コーヒーで染めたスケッチブック、
北向きの部屋とその中庭から香る葉巻、
ひとり忍び込んだピアノの下、
(あぁ、今でも覚えている!)
ワックス掛けの階段、
屋根裏のドライフラワー、
潮、
サンフランシスコ、
鼻をつく安物のマニキュア、
コカ・コーラ、
アイロンで焦がしたシャツが放つ微かな甘さ、
雨の日の憂鬱なバス停と
蒸気で蒸しかえる満員バス、
苔、
蒼いアジサイ。。


行く先々ではその場所のその時間だけの香りがあって、
全て無意識に通り過ぎたはずだったのに、
こんなにも鮮烈に記憶に残っているなんて!


香水。
その香りを生み出した作り手の心情と
それを選ぶ側の過去、現在、未来が時を超えて交差する。
底には見えない特別な何かが生まれる瞬間。
アートに似た特別なコミュニケーション。

香りは鼻から脳に伝わると言われるけれど、
もっとハートに近い位置で繋がっている気がするのは、
人は感情を持つ動物だから?
その働きはとても繊細なのに、ウソがない。
使い過ぎた脳をだます感じ。
もしもハートに直に聞いたのなら、
綿密に組み込まれて計算された分析結果よりも
時に的確な答えを教えてくれるはず。



香りを選ぶ時間が好き。
自分の裏側を覗きこむような、とても奥深くて神秘的な時間。
それはまるで目に見えない絵画を堪能するみたい。

香りを表現するのも好き。
それには沢山の形容詞が必要で、
カメラのピント合わせみたいな作業。

脳と感情を同時に扱うそれは、とても知的な作業。

そして香りとは不思議なもの。
それ自体、感情を持たない代わりに
喜びやら悲しみやら、ストレートに感情に訴えかけてくる。
顔のない扇動者。
機転の聞いた言葉を綴らせて、
そして黙らせる。

香りを経験すること。
それは自分の存在を一瞬違う向きから観察する何かしらの手がかりであり、
その瞬間に確かに自分がそこに“在って”何かを感じ取ったという、
あるいは、
その時間と場所を経験したという揺るぎない重要証拠人。

そしてそこから学べることと言えば、、
この自分が実に見事に、ここまで生き延びてきたという
明らかで喜ばしい事実!


*


私にシャネルの香水は似合わない。
少なくとも今の私には必要ない。

「“違い”を知る感覚はいつまでもとても重要です。」

と先日出会った香水売り場の店員さんが言っていた。
なるほど。
好きなものが分からなくなったとき、
好きじゃないものを排除してみる。
うん、面白い導きだし方だな。


過去を振り返るのは好きではないけれど、
香りだけは別。
それはある意味、今の自分を造ってきた主成分たるものだから。
これから先に続く未来にもきっと持ち続ける。
香りに変わった過去の記憶が
自分だけのフォルダに保存されている感じ。
以前は目に入らなかった宝物が眠っているかもしれない。
でも反対に、
未知のものを試してみるのも悪くない。
新しい革命を自分の中に起こしてみる。

そう、全ては自分の直感に従ってみるだけ。



それにしても香りの隙間に通り過ぎる
その感情の流れには”漂う”という言葉がよく似合う。

あぁ、香りはどこまでも人生についてくる。
まるで影の目撃者のように!
香りは人の人生から切り離せない。
だから、今年も香りと共に誕生日をお祝いしよう!

さあここからは、自分探しよりも自分創りの方へ!


Happy Birthday to who I a'm going to be!!